日本の製造業で10年間勤務し続けてきましたが、さっさと一斉採用を辞めた方が良いなと常々感じています。
一斉採用は人手を集めるには効率が良いかもしれませんが、どうしても配置を行う際に無理矢理人を入れ込んでいる感が拭えません。
アメリカの会社では、開発テーマや方針に応じて、こういう人が欲しいというのを募集要項に出してマネージャー自身が採用するかを見極めます。
若手の離職率が高いは、時代の流れや転職がしやすくなったことも理由に挙げられますが、それ以上に私は企業側の人材配置の仕方に原因があるのではと考えています。
その理由を、私が日本で開発部門に所属していたときに見てきた事例を基に解説したいと思います。
こんな方におすすめ
- 若手の離職率を下げたいと思っている人
事例
それぞれ学歴の異なるAさんとBさん、Cさんがいました。歳はいずれも20代半ばから20代後半です。
Aさん: 男性。旧帝大の博士卒。
Bさん: 女性。トップ私立の修士卒。
Cさん:男性。高専卒。
全員私と同年代だったので、社内外でもよく話をしており彼らのバックボーンであったり、仕事の不満などは色々聞いていました。
Aさんは、高度な専門的な知識を有しており、国内外での学会発表経験もあり、論文も複数提出。論理的な思考力はズバ抜けているが、リーダーシップを取るタイプではない。
Bさんは、専門的な知識を有しており、コミュニケーション能力も十分。ラボ研究よりも、「自分の製品を顧客に届けたい」という思いが強い。
そして、Cさんはコミュニケーション能力は抜群に高く、高専時代の部活で鍛えたガッツはピカイチ。フットワークも非常に軽いが、少々専門知識は乏しい。
当時我々若手が割り振られる仕事は大きく以下の3つに分けられました。
仕事 | 事業規模 | 利益率 |
花形事業 | 大 | 高い |
古参事業 | 中 | 低い |
新規事業 | 小~中 | 未定 |
花形事業は、従来製品の改良で、事業規模も大きく高利益率となっています。ただし短納期な仕事で、設計から量産、品質保証、顧客対応など広い視野での対応が必要となります。
古参事業は、古くからある事業で利益も低いが、顧客への供給は続けないといけません。環境規制や顧客要求などは高まる一方で、技術難易度の割に将来性があまりないような事業です。
新規事業は、未開拓分野の為、初期の事業規模は非常に小さいです。マーケットインできればある程度まで大きくなる見込みはあるものの技術的なハードルは高く、完成までの期間は長いです。
仕事の割り振りと成果
人材 | 仕事 | 仕事の成果と現状 |
Aさん | 花形事業 | ある程度の成果は残し続ける事ができ、新製品も立ち上げることができた。しかしながら、精神的に病んでしまい別部署へ異動、その後退職。 |
Bさん | 古参事業 | 顧客やサプライヤー、社内とうまく連携を取りながら、何とか製品の改良を続ける事ができた。ただ面白みも達成感もなく、スキルも身につかない仕事に嫌気がさし退職。 |
Cさん | 新規事業 | 探り探りで検討を進め、何とか製品化までこぎつけたが、技術的にも品質的にも課題あり。難易度と当人能力のミスマッチを黙認し続けるマネジメント層への不信感から退職 |
全員がある程度の結果を残しており、会社からの評価も比較的高い方でした。
ただし、全員が全員、自分の意向と求められる役割にギャップが生じてしまい、結果として精神的に追い詰められて全員退職してしまいました。
もちろん会社としても大きな損害ですが、個人が全員不幸になるというのは避けられなかったのでしょうか?
原因を考える
端から私が見ていた限り、それぞれの部署の雰囲気や求められる役割に対して、全くその人の素養がマッチしていないのが原因だと考えています。
花形事業に関して
この事業部に配属されたからには、絶対に結果を残さないといけません。
結果を残すには、開発としての専門的な知識も必要となりますし、突発的に色々対応できる地頭の良さやコミュニケーション能力も求められます。
もちろん頭の良いAさんは、仕事への対応はできますし、従来の製品開発行為に対してアカデミックな知見を加えることはできました。
ただし、大学の博士課程で求められる超専門的で最先端の知識や、未知の部分を仮説立てができるような優れた創造力も正直必要ありません。
そのようなことは既に基礎検討段階で終了しており、以下に顧客の手元に製品を届けるかの方が大事だからです。
そんなことよりも、多少強引でもガツガツプロジェクトを進めていくことを求められ続けたのです。
未知の現象に対して深く向き合うことが得意だったAさんには、向いているとはいえない役割でした。
古参事業に関して
古参事業では、新しい機能をもった製品をバンバン顧客に届けるってことは中々ありません。
どちらかというと価格低減の為の検討であったり、他拠点での支援など泥臭い仕事の方が遥かに多いです。
古い技術を踏襲しているので、将来に繋がるスキルは尽きづらく新しいことも始めにくく、常に自分の仕事や将来に不安を覚えていました。
直属の上司は、仕事の成果に対して勿論キチンと評価しますが、市場からの評価とは一致しないことは20代の若手でも理解しています。
当時から5年以上経ちましたが、その後も更に退職は続きほとんど若手はいなくなってしまいました。
世界中でインフレは進み、事業としての利益率は悪くなる一方であり、事業存続すら危ぶまれている状況です。
将来を担う(はずであった)優秀な人材を、こんな事業に割り振る必要性がなかったことは火を見るよりも明らかです。
新規事業に関して
新規事業というのは、海のものとも山のものとも分からないものですので、部署のエースに担当させるということは中々ありません。
ほとんどゼロからのスタートですので、製品コンセプトから始まり、材料設計や生産設計まで一から考える必要があります。
自由であるが故に選択肢は膨大になり、確認する項目も既存品の比ではなくなります。
トラブルシューティングも既存技術の踏襲というわけにはいかず、最後の詰めの部分では、深い専門知識と仮説発想力が求められます。
新規事業にこそ、博士課程を卒業したような人材を当てるべきだったのでは、と個人的に考えてしまいます。
最後に
以上あれこれ考えましたが、何が正解かってことは正直よくわかりません。
一つ言えることは、少なくともベターな解はあったし個人が犠牲になる必要はありませんでした。
100年以上前から始まっている一括採用*は、そろそろ見直しても良い時期だと思います。
以上です。